D論公開発表で使用した原稿と図表の一部


An ecological study on the mutualism between the drepanosiphid aphid Tuberculatus quercicola and the red wood ant Formica yessensis
(カシワホシブチアブラムシとエゾアカヤマアリの共生関係に関する生態学的研究)


Chapter 1 General Introduction

共生は全ての栄養段階で普遍的にみられ,そこに関わる生物種が相互に利益を与えあう関係である。しかしながら近縁種の関係にありながら,一方は第三者と共生関係を築き,他方は築かないこともある。さらに共生関係を結んでいる場合でも,その生物がおかれている環境条件によっては相利共生が片利共生へと変わり,さらには捕食被食の関係にまで変化しうるダイナミックなものであることもわかってきた。このような時空間的に変化する共生関係の進化の理解には,共生関係にある両生物種の適応度に関するベネフィット(利益)とコスト(損失)を量的に評価した研究が必要不可欠である。本研究はアリ−アブラムシ共生系を対象に,ベネフィットとコストの実体を明らかにするとともにその量的評価を行い,共生関係の進化過程を考察することを目的とした。

Chapter 2 共生型アブラムシに対するアリ随伴のコストとベネフィット

従来アリとアブラムシの共生は,アブラムシがアリに糖分やアミノ酸を含んだ甘露を提供し,アリは捕食者からアブラムシを護衛するという相利的な関係として強調されてきた(写真1)。しかしながらアリと共生しているアブラムシの種数は実際にはそれほど多くないことが報告されている(Bristow 1991)。その理由の一つに随伴アリのアブラムシに対する負の影響が考えられる。この実験では,アブラムシのコロニーレベルと個体レベルの両方に対するアリ随伴の効果を評価した。

材料と方法 実験・観察は野外で行った。

広葉樹カシワの葉にコロニーを形成するカシワホシブチアブラムシと随伴アリのエゾアカヤマアリを用いて,アブラムシに対するアリ随伴のベネフィットとコストを次の2つの条件で定量化した。

(1)アリ随伴のベネフィット:二またにシュートが分かれているY字型の枝を選び,先端の葉を一枚だけ残し,そこにクローンのアブラムシを同数ずつ導入した。一方のシュートの根元に忌避剤を塗りアリ除去コロニーとし,もう一方はアリが自由に接近できるアリ随伴コロニーとした(図1)。このような組み合わせを4本のカシワで合計22組用意し,両コロニーの生存期間,捕食者の数を記録した。
(2)アリ随伴のコスト:(1)と同様に二またの枝を3本のカシワから合計21組選び,アブラムシを導入した。ここでは捕食者の影響を排除するためにアブラムシのコロニーを全て袋掛けした。そして一方のシュートの根元にはアリが通過できるプラスチックチューブを2本取り付け,アリ随伴コロニーとした(図2)。この処理はアブラムシに対する随伴アリのみの効果を検証するために行った。アブラムシのサンプリングは両コロニー内のアブラムシが4齢に達した時に適宜行い,体幅,後脚腿節,成熟胚子数そして総胚子数を測定した。統計にはRandomized-block ANOVA, MANOVAを用いた。

結果と考察 (1)全てのアリ除去コロニーは1ヶ月以内に全滅し,アリ随伴コロニーは11コロニー(50%)生残した。捕食者の個体数と種数はアリ除去コロニーで多かった。また捕食者の大部分はフクログモの幼虫であり,その数もアリ除去コロニーで多く見られた。しかしながらホソヒラタアブの幼虫の侵入率は,両コロニーで有意差はなかった。これらの結果から,捕食者が存在する条件下では,アリ随伴はアブラムシに対して捕食者からの保護という利益を与えていた。
(2)MANOVAは,全体として随伴アリの有無がアブラムシの形態及び繁殖形質に有意な影響を与えていることを示した。さらに各形質別に行ったANOVAでは,アリ随伴コロニーのアブラムシはアリ除去コロニーに比べて体幅,後脚腿節が有意に小さいことが示された。また,成熟胚子数には差はなかったが,総胚子数はアリ随伴コロニーで少なかった。これらの結果より,アリ随伴はアブラムシに対して負の影響も与えていることが明らかになった。(より詳しい結果は,下記のYao et al. (2000)を参照してください。)


参考文献
Bristow CM (1991) Why are so few aphids ant-tended. In: Ant-Plant Interactions. Huxley CR, Cutler DF (eds), Oxford University Press, 104-119.

Yao I, Shibao H and Akimoto S (2000) Costs and benefits of ant attendance to the drepanosiphid aphid Tuberculatus quercicola. Oikos 89. 3-10.